ニューアルバム『Storyteller』について
2014年10月に、DIRTY OLD MENから気持ちも新たに、MAGIC OF LiFEへと改名。ニューアルバム『Storyteller』は、前作『Blazing』から約10か月という期間でリリースされる作品となる。
1年を切る短いスパンでのアルバム制作は、創作意欲に溢れるメンバーの気持ちの表れと言っていい。初のコンセプトアルバムである『Storyteller』についてボーカルの高津戸信幸に語ってもらった。

――ニューアルバム『Storyteller』を制作するにあたって、最初にどんな作品にしたいという思いがありましたか。
高津戸 『Storyteller』は、バンドが10周年を迎えて11年目の昨年10月に改名してからの、最初のアルバムになります。僕はずっと、物語を描いたコンセプトアルバムを作りたかったんです。自分の音楽人生でいろんな人と出会って、そのときに感じたこと、今思っていることを元に10個の物語を作って、僕ら自身が“Storyteller=語り部”となって演奏しました。そしてラストの曲「storyteller」で僕らの思いを綴ったんです。
――バンドにとって名前を変える、ということは大きな決断だったと思うのですが。
高津戸 変えた理由は、僕の人生を変える大切な人に出会ったから。10年やっていると愛着もあって正直不安でしょうがなかったですし、ビビってたけど、逆に変化を怖がるよりも、変われない自分のほうが怖いなって思えたんです。ほんとこの世界って、オリジナルしか生きていけないし、挑戦し続ける人しか生き残れない世界。そこに果敢に挑戦して、仲間と夢を見れてることが幸せなことだと一歩踏み出したのが、11年目の改名だった感じですね。
――バンドとして固まってきたからこそ、コンセプトアルバムができたと。
高津戸 それは確かにありますね。19歳でデビューして今までCDを出してきたけど、何も知らならなくて、周りの人に助けられてきたんです。日々死ぬまで修行じゃないけど、がむしゃらに必死に作ってきたという思いがあります。それがメンバー変わってやっと落ち着いた……バンドの足場がしっかり固まったということなんでしょうね。だからこそ、『Storyteller』ってアルバムが作れたというのはあると思います。
――楽曲は作り込んだものながら、演奏はセッション感があって振り幅がありますね。
高津戸 ライブを重ねて、メンバー間の信頼も絶対的なものとなってきています。曲は僕が作るけど、デモの段階で作り込みすぎるのはあまり面白くないと思うんですよ。バンドだから、メンバーの個性が入って曲の表現が広がるってことを求めたいし。その思いは今までよりも強くなりました。
――このアルバムで一番伝えたいことはなんですか。
高津戸 音楽人生でいろんな人との出会いがあったから、今僕がここにいて、今も音楽やれてる。それは奇跡だと思うんです。「ありがとう」って言葉を、まだストレートに伝えられなくて、僕なりに物語にして伝えたいと。たとえばゾンビがありがとうって言ったら、今の僕の気持ちに近い感情で聴いてもらえるんじゃないかって。
また別の物語では、バレエダンサーが飛びたいって思いながら、足を血まみれにしても踊ってる。それくらいの気持ちで僕も音楽をやっているんです。「飛べ」って言葉が、一番僕のリアルに近い。そういう物語の集まりのコンセプトアルバムにして、最後の曲にストーリーテラーとしての思いを託しました。
高津戸信幸による全曲解説
1. First morning
基本、僕は“忘れてほしくない”って思いが強いんですが、そうした思いが出てる曲ですね。1番に女性が出てきて、2番で男性が出てくるんです。その女性は朝に飲むコーヒーを紅茶に変えるんですが、変化しながらも「それでもそばにいるよ」って男性に言うんです。これを作ったのが去年の夏頃で、ちょうどバンド名の改名を決める時期だったんです。そのときの僕の迷いや弱さを、強さに変えたいって願望が出てるような気もします。アルバムの1曲目で、「はじめまして」って言葉が入れられたのは、偶然ではありますが素敵だなと思います。サウンドは、軽やかな朝のイメージにしたくて、それをメンバーに伝えてトラッドっぽい音になりました。

2. Joker’s hourglass
砂時計の中で繰り広げられる戦いです。トランプでもやってたのかな?(笑) 「カラクリを全部暴くんだ」「手段を選んでられるか」「時間が足りなすぎるほど死に近づいている」とか、生き急いでる感がありますね。人って、やっぱりリミットがあるからがんばれると思うんです。それを比喩的に描いて、勢いのあるソリッドなサウンドになりました。
3. balletto
僕らバンドマンは、自由な世界で生きてるんですが、自由だからこそ自己管理が必要だったりするじゃないですか。それはスポーツ選手も一緒。自由な世界にいて、まだ見ぬ空の向こう側に飛んでいきたいって思いを歌詞にしようとしたとき、トゥシューズを血で染めながらもがんばるバレエダンサーが頭に浮かんだんです。滑走路で、バレエダンサーが飛ぶようにダンスする景色を描きたくて、この曲ができました。これも戦ってる曲ですね。
4. ジェットモンスター
ケータイアプリのガチャガチャが元々のモチーフになってます。あの何回もやってしまう感じです(笑)。それと、自分自身の行き先のわからない旅とジェットコースターを重ねて作りました。主人公が天真爛漫なんです。「世界が自由さ、未来へジャンプ」と言うけど、ジェットモンスターに頼るっていう(笑)。かわいい世界観を作りたいって気持ちはずっとあるんですよ。あと、僕は、ヒーロー願望、誰かを救いたい願望が強いんです。でも、オレに任せろってよりも、遠回しで背中叩くような感じの人間でいたいので、そうした部分も出てる曲です。
5. 箒星の余韻
これからもずっと大事な曲ですね。バンド名にした、MAGIC OF LiFE=“命の魔法”って意味が込められた楽曲なので。元々僕は、ずっと自信がない人間だったんです。ステージに立つのも怖かったし、人と目を合わせられない時期がけっこう長くて。その頃、地方にライブに行くと、出口で待ってくれてる子たちがいたんですね。その中の子が泣きじゃくった笑顔で、「ほんとにヒーローです、救われてます」って言ってくれたんです。彼女の言葉に、逆に僕が救われたんですよ。自分の弱い命をふるわせて魔法みたいな世界を見せてくれた。それで、命の魔法って意味のバンド名にしたんです。昔の自分みたいに自信のない子に、手を差し伸べて救える曲でありたい。目の前の世界が輝いて見えてほしいって思いが詰まってます。
6. りんご飴
完全に高校生のときの僕の実体験です。宇都宮に二荒山神社というところがあって、その宮祭りに行ってたんです。当時の恋してた甘酸っぱい記憶ですよ。ほんと、匂い、体温って覚えてますね。あの頃の思い出って、30歳近くなった今でも思い出します。あ~よかったな、あの子りんご飴好きだったなって。僕、前は自分の経験を歌詞にするのが苦手だったんです。むしろ、自分の心を隠すように物語を書いてましたから。そうじゃなくて、自分の気持ちを開いて、実体験を元に物語を書けるようになったのは、成長の表れかなと思います。
7. Zombie(s)
ゾンビの少年と、禁断の呪文を唱えた魔女の女の子が出会うっていう、こういうファンタジックな世界観の物語をずっと書きたかったんです。やっぱり、人間って永遠がないとわかってるからこそ、永遠を願うと思うんです。僕らがこの曲に込めた思いとしては、リミットがあるのはわかってるけど、それでも永遠に続くようにがんばろうってことですね。主人公の2人も最後に『ここから出して』と言ってるんですけど、光のある感じで曲を終わりたかったんです。僕らも、もっと外に出たいという思いで向かっているので、希望を込めて。

8. ソラヘノ欠片
栃木のロードレースチーム、宇都宮ブリッツェンのテーマソングです。疾走感があって、みんなで精いっぱいゴールに向かっていく、きずな系の曲。僕らは、誰かの道を辿ってるわけじゃなく、新しい道を探しながら、道なき空の果てに4人で進んでいってる。そうした思いが、この曲には表れています。
9. 月に揺られて
自分の気持ちとは完全に切り離して、ほんとに物語を書きましたって感じです。女の子がかわいく見える仕草をイメージしたりして、メロディアスな楽曲になっていきました。汽車の中で窓越しで、男の子を見る女の子って感じです。でも、心の中ではけっこう大胆なこと考えてるっていう(笑)。自分の想いに気づいてほしいって曲ですね。女性が聴いて喜んでいただけたらうれしいです。
10. リリム
すごくダイナミックなサウンドで、いい世界観が作れました。僕は今まで“涙”って言葉はあまり使わないようにしてたんですけど、これは大胆に使いました。心の痛みが癒えたとしても、その思いは消えないし、涙という哀しみで人とつながってるって曲です。いつしか痛みは忘れるよって曲はけっこう多いけど、僕らは忘れないでいたいんです。つらい思いをしながら戦ってきて、でもそのときの痛みがあるから今があるってことを書きたかったんです。
11. storyteller
僕の存在意義であり、MAGIC OF LiFEというバンドの改めての意思表明です。がむしゃらに10年やってきて、体感的にわかることがあったんです。時間とともに世の中も自分も変わっていくけど、でもバンドを始めた頃に思っていた、誰かに認められたいって気持ちや、存在を証明したいって根本の気持ちは、今も変わってないんですよね。「音に命を宿して」「忘れないでほしいと声を飛ばした」ってことをこれからもやっていく。それを余計な言葉を入れずに、ストレートに短い曲で言い切って、とてもいい形でアルバムを締めくくれました。
ライター・土屋恵介